JR九州 環境報告2018

第三者所感

 パリ協定は、今世紀後半には温室効果ガスの排出と吸収をバランスさせ、つまり「脱炭素化」をめざすことを掲げており、我が国も2050年までに温室効果ガス排出の80%削減をめざし、さらに脱炭素化へ挑戦することが、今年決定された第五次の環境基本計画及びエネルギー基本計画で改めて確認されました。このための中期の取り組みが大切ですが、長く使われる施設・インフラを計画的に整えていくことは特に重要です。毎年のJR九州の環境報告は、このことが自社の低炭素社会実行計画を通して十分に意識されており、計画の掲げる2030年目標達成のために、毎年着実に努力を積み重ねてきていることを知らせてくれます。今年の報告書には、2016年から若松・直方間に投入された架線式蓄電池電車「DENCHA」に続いて、YC1系蓄電池搭載型ディーゼルエレクトリック車両開発が進んでいると書かれています。これで、電化区間と非電化区間を走行するという条件に恵まれていない非電化区間でも温室効果ガス削減がまた一歩進むことでしょう。
  昨年のJR九州の電力使用量は前年より増えていますが、その他の燃料などが大幅に減りました。その結果、2017年は車両走行キロも輸送人員数も伸びているのに、エネルギー起因のCO2排出量は前年に比べて8.5%も減っています。温室効果ガス80%削減のためには二次エネルギーを電力中心にすべきことを、中央環境審議会の「低炭素ビジョン」や国の第五次エネルギー基本計画が共に指摘しています。JR九州がその方向に動いていることを理解できる今年の報告です。
 普通はあまり目立たない話題ですが、化学物質による環境リスクの対策への取り組みがかなり詳しく報告されていることにも注目します。フロン対策は、国際条約改正に伴う法改正が行われ、温室効果ガス対策としての重要性にも目が向けられてきました。また、PCB廃棄物処理は、先行してきた西日本地域では、高濃度PCBの処理がほぼ終わり、低濃度PCB処理にとりかかる段階となりました。1966年から74年まで橋梁塗装に使われていた塩化ゴム系塗料にPCBが使われていたのでその対策も話題になっています。九州では大丈夫でしょうか。さらにアスベスト含有建材が使われた建物の解体が進む時期になっていますので、これまでは規制対象でなかったレベル3の建材の扱いにも注意が必要です。
 今年の各地での取り組みの報告で注目したいのは、駅へのオープン型宅配ロッカー設置です。宅配物の再配達の削減は、温室効果ガス発生抑制だけでなく、配送従事者の負担軽減などの効果があります。SDGsは、領域を越えて環境・経済・社会の課題への統合的取り組みを推奨しています。そのような意味からも、条件とニーズを勘案しつつでしょうが、このようなサービスが拡大されていることは、JR九州が、環境と社会貢献を企業のガバナンスに結び付けるという、ESGの評価をも考慮した経営を着実に進めていることの一例とみることもできるのではないかと考えます。
 

2018年11月

福岡大学名誉教授・前中央環境審議会会長
浅野 直人