JR九州グループ地球環境への取り組み
第三者所感
本年6月11日、政府は「パリ協定にもとづく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定し、最終到達点として「脱炭素化」をめざすこと、2050年までに温室効果ガス80%削減という長期的目標の実現にむけて大胆に施策に取り組むことを確認しています。このためにはイノベーションとグリーンファイナンスの推進等が必須としており、環境配慮に優れた企業へのグリーン投資、ESG金融の拡大による後押しの重要性を強調しています。今回の環境への取り組み報告からは、JR九州で、このような動きを先取りする取り組みがすでに始まっており、グリーン投資の受け皿としてのJR九州の存在をアピールしようとする会社の積極的姿勢が見えてきます。
今年度からはグループ会社を含めた環境マネジメント体制が強化され、ガバナンス(G)がさらに整備されました。また、環境(E)への取り組みという点では、特に、省エネ型車両の積極的導入によって、低炭素社会実行計画に掲げたエネルギー消費原単位削減の目標を目標年次から12年も前倒しで達成させることができたことは大きなできごとです。注目できる架線式蓄電池電車「DENCHA」の走行区間が福岡都市圏に拡大し、150万の市民の目にJR九州の取り組みの「本気度」が見える形で示されるようになり、また、811系リニューアル電車車両よりさらに省エネ性能に優れた821系電車車両が営業運転に投入されました。これらの努力は、環境負荷の大幅な削減と共にエネルギー経費の節減にも大きく役立っているはずです。なお、昨年秋から筑肥線唐津変電所で稼働を始めた電力貯蔵装置にも注目できます。瞬時に創られ消費される電力を無駄なく使う努力も、「積もれば大きなヤマ」になることだからです。
ところで、使用済み木製まくらぎといえば、大学祭のファイヤーストームでの薪代わりに活躍してくれていたという青春の思い出につながりますが、この13年間で約41万7000本が木製からコンクリート製などに置き換えられたようです。廃棄物削減や森林資源保全などの観点だけでなく、交換頻度の削減が、労務やその経費負担の軽減にもつながっているのだろうと思わされます。また、森林の環境保全に配慮した木材資源によることの認証を受けた紙用紙をグループ会社全体で積極的に採用するという目立たない努力があることも評価されていいでしょう。
地域一体となった環境への取り組みへの積極的参加、支援の姿勢がJR九州の社風として根づいていることにも感謝します。地球温暖化対策推進法にもとづいて設立され法律上の登録第一号とされている福岡市温暖化対策市民協議会の活動では、発足当初から幹事会社を務めていただいております。また、昨年もご紹介した宅配便受け取りロッカーが増設されていますが、これは鉄道利用者への利便提供という意義のみならず、これによる再配達の削減が働く人の負担軽減に資するという意味では、JR九州社内を超えた社会(S)への貢献ともなっていることを評価いたします。
2019年8月
福岡大学名誉教授・前中央環境審議会会長
浅野 直人