自由時間手帖

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嵐のあとの渓谷へ

管啓次郎

管啓次郎

1958年生まれ。詩人、批評家。明治大学理工学研究科「場所、芸術、意識」プログラム教授。読書と旅をめぐる批評的エッセーを多数発表。『斜線の旅』(インスクリプト)にて読売文学賞受賞。
『Agend'Ars』から『数と夕方』にいたる5冊の詩集は、中原中也賞、高見順賞、鮎川信夫賞、萩原朔太郎賞などの最終候補になっている。最新刊は英語詩集 Transit Blues (キャンベラ大学現代詩研究国際センター)。

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商店街「仲町」

商店街
「仲町」

大分県佐伯市の中心商店街。佐伯市で唯一アーケードがあり、
多くの商店が軒を連ねている通り。 近年人通りがまばらになったことを受け、
仲町を市民協働の拠点とすることにより商店街の賑わいにつなげる取り組みを行っている。

「着いた翌日、姉と兄が短期間通っていた小学校付近を見に行き、そこから古いアーケード付き商店街「仲町」のほうにぶらぶら歩いていった。アーケード街の手前にいかにも店相のいい気取らない食堂があったので早めの昼食のために入ると、ここの名物がごまだしらしい。迷わず注文すると、エソと胡麻の味わいがふくよかに口にひろがり、思わず「うまい!」と声に出してしまった。 」

管啓次郎『嵐のあとの渓谷へ』(2018)

宗太郎駅

宗太郎駅

大分県南極部、宮崎県との県境すぐそばに位置する駅。
山間部深くにあり、いわゆる秘境駅のひとつに数えられる。

「日豊本線の最寄り駅は「宗太郎」。佐伯からは各駅停車でわずか五つめ。そこまで電車でとも思ったが、この無人駅に停まる電車は上り下り合わせて一日に三本だけなのだ。仕方ない。方針を変え、佐伯でレンタカーを借りて出発することにした(ちなみに宗太郎駅そのものは、国道10号線を走ってゆけばわかりにくい場所ではない。目的地からの帰路に少し遠回りをして寄ってみたが、剝き出しのプラットフォームと小さな待合室だけの、愛らしい駅だった)。 」

管啓次郎『嵐のあとの渓谷へ』(2018)

藤河内渓谷

藤河内渓谷

祖母・傾国定公園内に位置する渓谷。県境の夏木山に源を発し、
観音滝を起点に約8km続く。
巨大な花崗岩の一枚岩を桑原川が長い年月をかけて刻んだ奇観は圧巻。
景観だけでなく、夏はキャニオニングを楽しむこともできる。

「巨大な花崗岩の一枚岩がどこまでもつづいている。その上を勢いよく水が流れ、何万年もかけて岩を削ってきた。流体の複雑な動きにしたがって岩が削れ、あらゆる優美な曲線をもった巨大な彫刻になっている。水は幾すじにも分かれ、あるところでは小さな滝、あるところではごく細いが深くえぐれた回廊を作り、またあるところでは岩の表面全体を濡らすような浅く広い流れとなって、その先でまた合流し、また分かれ、水音のあらゆるパターンがこの一帯にひろがり、それらが同時に聞こえる体験したことのないオーケストレーションが渓谷をみたし、秋の明るい日射しがふりそそぎ、気持ちのいい風が吹いている。 」

管啓次郎『嵐のあとの渓谷へ』(2018)

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