自由時間手帖

JR九州

「自由時間手帖について」

美味しいもの、温泉、海、山、歴史遺跡、人懐っこい人々。
九州には、たくさんの魅力がある。
そして、旅人たちを優しく受け入れる懐の深さがある九州には、
旅人の数だけ、旅人たちに見せる表情があり、そんな旅人たちのストーリーにあふれている。
「自由時間手帖」は、そんな九州を旅した、書き手たちの旅のお話。
個性豊かな、九州の旅をお楽しみください。

尾曲がり猫を探して 尾曲がり猫を探して

尾曲がり猫を探して

辛酸なめ子

尾曲がり猫とパワースポットを
めぐるスピリチュアル旅

「尾曲がり猫」やスピリチュアル女将、 喉の病に
ご利益のある神社……今回も不思議な縁に
導かれた旅でした。

尾曲がり猫を探して

「尾曲がり猫」の存在をはじめて知ったのは、都内の写真展でした。長崎県には、しっぽが曲がった猫がたくさん生息していて、そのしっぽが「幸運をひっかけてきてくれる」と考えられているそうです。南蛮貿易の時代に、外国船に乗ってやってきた尾曲がり猫。かわいい上に幸運を運んできてくれるとは。猫好きとしても、ぜひその姿を見てみたい……そんな思いで久しぶりに九州に向かいました。
まずは長崎の観光スポット、出島へ。江戸時代に行われていた南蛮貿易のために作られた人工島です。ねずみ退治のために外国船に乗せられていた猫が「ここは住みやすそうだニャ」と船を降りて、この界隈に居着いたのかもしれないと想像。尾曲がり猫の先祖の残留思念を感じます。
長崎の海辺には現代の外国船、ビルくらいのサイズ感の巨大な客船が停泊していて、外国人と思われる観光客の団体がぞろぞろ歩いていました。今の船は重装備で、猫が抜け出してくるスキはなさそうです。…

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辛酸なめ子

辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。 埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。 アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は「魂活道場」(学研)、「ヌルラン」(太田出版)。

宮崎・鹿児島の旅

宮崎・鹿児島の旅

久住昌之

驚きと笑いにあふれた
九州出たとこ紀行

『孤独のグルメ』作者が出たとこ勝負で挑んだ
「シブい九州」探しの旅!

宮崎・鹿児島の旅

九州に飛び、宮崎と鹿児島に行った。
宮崎県は、まだ一度しか行ったことがない。調べたら1997年。NHKの『未来派宣言』という番組のレポーターとして、訪ねた。12年前か。
仕事の合間に、鬼の洗濯板を見て、お昼にラーメンを食べて、夜の宴会の最後に生まれて初めて「冷や汁」を食べた。ただの味噌汁かけご飯がなぜ名物なんだ? と思って食べたら、あまりのおいしさに自分の目がまん丸になるのがわかった。
でも、そのくらいしか覚えていない。何のレポートしたんだっけ? 忘れた。
宮崎空港は、ずいぶんイメージが変わっていた。名称からして「宮崎ブーゲンビリア空港」になっている。やっぱり東京より、あたたかい。陽射しが強い。…

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久住昌之

久住昌之

1958年東京生れ。1981年、和泉晴紀と組んだ「泉昌之」としてマンガ家デビュー。同名で『かっこいいスキヤキ』『ダンドリくん』『食の軍師』等多数。1999年に実弟・久住卓也とのユニット「Q.B.B.」による『中学生日記』で、第45回文藝春秋漫画賞を受賞。『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)は世界10カ国で翻訳出版され、ドラマ化され現在season8。劇中音楽も制作。『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など、マンガ原作者として話題作を次々と発表する一方、エッセイストとしても活躍。『野武士のグルメ』『昼のセント酒』『ひとり家飲み通い呑み』『野武士、西へ 二年間の散歩』など多数の著書がある。2019年、自ら絵も手がけた絵本『大根はエライ』で第24回日本絵本賞を受賞。

地球に触れる旅

地球に触れる旅

角田光代

こんな旅らしい旅は
ずいぶんと久しぶりだ

九州をこよなく愛する作家が見た
熊本・人吉〜阿蘇紀行。

地球に触れる旅

土地と人には縁がある。人と人とに縁があるように、はっきりと縁がある。私はずっとそう思っている。
九州とはなかなか縁がなかった。30歳の半ばを過ぎるまで、いく機会がなかったのだ。はじめて九州に足を踏み入れたのは2007年。依頼された取材の旅で、熊本空港に降り立った。レンタカーに乗りこみ、カメラマン氏の運転で空港を出て、ミルクロードという道を走った。窓から見える新緑がうつくしくて、空が高くて気持ちがよくて、むくむくと指の先まで興奮して、九州すごい! と思った。景色がうつくしいという、ただそれだけではないとくべつな感じがあって、私はその「感じ」をキャッチしたのだと思う。この場所が好きだ、と思った。思ったばかりか、いっしょにいた編集者さんに「ここにこられてしあわせです、ありがとうございます」と突如大声で言って、…

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角田光代

角田光代

1967年神奈川県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。2005年『対岸の彼女』(文春文庫)で直木賞、2006年「ロック母」で川端康成文学賞、2007年『八日目の蝉』(中公文庫)で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』(文春文庫)で伊藤整文学賞、2012年『紙の月』(ハルキ文庫)で柴田錬三郎賞、『かなたの子』(文春文庫)で泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』(新潮文庫)で河合隼雄物語賞を受賞。その他の著書に『キッドナップ・ツアー』(新潮文庫)『空の拳』(文春文庫)『平凡』(新潮社)『坂の途中の家』(朝日新聞出版)『拳の先』(文藝春秋)など多数。

長崎

長崎へ、『光』を観に行く

酒井順子

鉄道と美味とド・ロさまと

鉄道と美味しいものが大好きな
エッセイストが体験した長崎・絶景の旅。

長崎へ、『光』を観に行く

東京で生まれ育った私は、西へ旅する時はいつも、距離とともに時間をも移動しているような気持ちになるのでした。歴史の深層へと、潜入していくような感覚になるのです。
中国大陸や朝鮮半島を経由して、多くの文化を取り入れてきた、日本。外国の人達が最初に踏む日本の地となることが多かったのが、九州です。
中でも長崎は、外国との結びつきが深い地。島が多い長崎は、陸路は移動がしにくいイメージがあります。鉄道好きで有名な内田百閒も、『第三阿房列車』(新潮社)の中の「長崎の鴉 長崎阿房列車」で長崎を訪れていますが…

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酒井順子

酒井順子

1966年東京生まれ。高校時代より雑誌「オリーブ」に寄稿し、大学卒業後、広告会社勤務を経てエッセイ執筆に専念。2003年に刊行した『負け犬の遠吠え』はべストセラーとなり、講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。三十代以上・未婚・子ナシ女性を指す「負け犬」は流行語にもなった。他の著書に『枕草子REMIX』『都と京』『女流阿房列車』『紫式部の欲望』『ユーミンの罪』『地震と独身』『子の無い人生』など多数。

嵐のあとの渓谷へ

のんびり鉄道で人生を振り返る旅を

柴門ふみ

「どうしても、また九州に行きたい」

漫画家は「作品に大きな影響を与えた」
という九州に再び向かった……。

のんびり鉄道で
人生を振り返る旅を

JR人吉駅の前に私は立っている。これから、観光列車「特急いさぶろう・しんぺい号」に乗車するためである。

九州と私の縁は深い。多分、国内で一番多く旅した地域であろう。四国生まれの私にとっては、地理的にも遠すぎず近すぎずちょうどいいのだ。中学の修学旅行が九州だったのも、距離的にも旅費的にも、ちょうどよかったからではないだろうか?

「京阪神は近すぎる。北海道、東北は遠すぎるし、東京は都会過ぎる。北陸は、ピンとこない」

そんなふうに教職員が思ったかどうかは不明であるが…

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柴門ふみ

柴門ふみ

1957(昭和32)年、徳島県生れ。お茶の水女子大学卒。1979年漫画家デビュー。あらゆる世代の恋愛をテーマにして『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』など多くの作品を発表している。現在『恋する母たち』連載中。またエッセイ集として『恋愛論』『ぶつぞう入門』『オトナのたしなみ』などがある。ペンネームは中学時代からファンであったポール・サイモンに由来している。

嵐のあとの渓谷へ

嵐のあとの
渓谷へ

管啓次郎

「聖地か、ここは」

旅に選んだのは縁ある大分県・佐伯。
そこで詩人が見たものは……?

嵐のあとの渓谷へ

夏休みを取り損ねていた。大学の語学教師というと、授業がない期間はずっと休みだと思われがちだ。しかし授業がなければ休みというのは学生の話で、学部や図書館の業務はずっと続いているし、何より学期中はほとんど手がつけられない専門分野の論文書きなんかは、学期が終わったその瞬間から本格的にはじめるしかない。それで鈍い頭をごんごん壁にぶつけながら、どうにかこうにか英語の作文をかたちにしたころには、休みを1日もとらないままに8月が終わろうとしていた。

これでは精神に悪い。9月になってから旅に出ることにした。行ってみたいところはあった。大分県南部の佐伯市だ。

ぼくが幼児のころ最初に覚えた鉄道の路線名は「日豊本線」…

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管啓次郎

管啓次郎

1958年生まれ。詩人、批評家。明治大学理工学研究科「場所、芸術、意識」プログラム教授。読書と旅をめぐる批評的エッセーを多数発表。『斜線の旅』(インスクリプト)にて読売文学賞受賞。
『Agend'Ars』から『数と夕方』にいたる5冊の詩集は、中原中也賞、高見順賞、鮎川信夫賞、萩原朔太郎賞などの最終候補になっている。最新刊は英語詩集 Transit Blues (キャンベラ大学現代詩研究国際センター)。

私の、北九州周辺のこと

私の、北九州周辺のこと

牧野伊三夫

それもまた旅だなと思うのである

画家がこよなく愛する、
ノスタルジックな北部九州・鉄道の旅。

私の、北九州周辺のこと

時刻表 私の父は、高校を卒業すると、北九州市の小倉駅前にあった日本交通公社(現在のJTB)に就職して働きながら、市内にある大学の夜学に通った。本当は就職をせずに、もっとランクが上の大学へ通いたかったらしいが、家に金が無かった。行きたい大学に合格するだけの十分な学力はあったのだ、という話は、耳にタコができるくらい聞かされた。

会社では、大卒よりも待遇は良くなかったが、負けたくないと思っていたから、他の社員たちよりも早く出社をして、社内の机をふいてまわっていたらしい。ときは昭和三十年代、日本は高度経済成長の頃で景気は右肩上がり、会社は大忙しだった…

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牧野伊三夫

牧野伊三夫

1964年北九州市生まれ。画家。1987年多摩美術大学卒業後、広告制作会社サン・アドに就職。1992年、退社後、名曲喫茶でんえん(国分寺)、月光荘画材店(銀座)、HBギャラリー(原宿)等での個展を中心に画家としての活動を始める。1999年、美術同人誌『四月と十月』を創刊。第2回アトリエヌーボーコンペ日比野賞。2012、2013、2017年東京ADC賞。著書に『僕は、太陽をのむ』『仕事場訪問』(港の人)、『かぼちゃを塩で煮る』(幻冬舎)、21018年12月に、これまでの旅の連載をまとめたエッセイ集「画家のむだ歩き」(中央公論新社)を刊行予定。『雲のうえ』(北九州市)、『飛騨』(飛騨産業)編集委員。東京都在住。

本当にいた砂かけばばあ

本当にいた
砂かけばばあ

稲垣えみ子

「それこそが旅の本質なのだ。」

「一人旅が苦手」だったアフロえみ子を変えた、
32歳の鹿児島の旅。

本当にいた砂かけばばあ

旅というのは基本的に一人旅のことだと思っている。
なーんて偉そうなことを言っているが、以前は全くそんなふうには考えていなかった。というか、そもそも一人旅というものをしたことがなかった。
理由は簡単で、一人でどこかへ行っても、何が面白いんだか、そもそも何をしたらいいのかサッパリ分からなかったからだ。一体何を考えて、何を楽しんだらいいんですかね? もちろん名所旧跡を回ったり、土地の美味しいものを食べたりすることはできる。しかしそれも「すごいねー」とか「美味しいねー」とか、仲の良い誰かと言い合うから楽しいのだ。一人では何を見ても何を食べても「……だから?」という心の声に襲われることになる。だって実際のところ、世の中はそんなに素晴らしいモノやコトで溢れているわけじゃなくて…

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

1965年、愛知県生まれ。87年朝日新聞社入社。大阪社会部、週刊朝日編集部、論説委員などを経て、編集委員として「ザ・コラム」を担当。そこで綴った原発事故を契機とした超節電生活とアフロヘアで話題に。一昨年一月に早期退職し、定職につかず自由に楽しく閉じていく人生を模索中。著書に「魂の退社」「寂しい生活」(いずれも東洋経済新報社)「もうレシピ本はいらない」(マガジンハウス)など。

本当にいた砂かけばばあ

九州で
心の岩戸が
開く旅

辛酸なめ子

一泊二日貪欲な九州癒やしの旅

辛酸なめ子がめぐる、
九州のパワースポット高千穂~天草紀行。

九州で心の岩戸が開く旅

東京での暮らしに疲れた時、ふと頭をよぎるのが「九州に行きたい……」という思い。「そうだ、九州行こう」的な衝動です。父方の祖父母や母方の先祖のお墓が九州にあったりして、私にとってルーツといってもいい第二の故郷であり、時々充電しに訪れたくなるパワースポットです。
これまで何十回も九州に行っていますが、まだ訪れたことがない秘境的な場所がありました。それは天孫降臨の地であると伝えられる高千穂と、世界遺産とイルカと潜伏キリシタンの聖地である天草です。九州の地図を眺めていたら、熊本を拠点にすれば両方行けるのではないかという思いが芽生え、今回、ちょっと貪欲なコースかとも思いながら一泊二日の癒しの旅をすることにしました。
早朝東京を出発し、熊本空港に到着…

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辛酸なめ子

辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。 埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。 アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は「魂活道場」(学研)、「ヌルラン」(太田出版)。

ハロー!自由時間クラブとは?