自由時間手帖

JR九州

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地球に触れる旅

角田光代

角田光代

1967年神奈川県生れ。早稲田大学第一文学部卒業。2005年『対岸の彼女』(文春文庫)で直木賞、2006年「ロック母」で川端康成文学賞、2007年『八日目の蝉』(中公文庫)で中央公論文芸賞、2011年『ツリーハウス』(文春文庫)で伊藤整文学賞、2012年『紙の月』(ハルキ文庫)で柴田錬三郎賞、『かなたの子』(文春文庫)で泉鏡花文学賞、2014年『私のなかの彼女』(新潮文庫)で河合隼雄物語賞を受賞。その他の著書に『キッドナップ・ツアー』(新潮文庫)『空の拳』(文春文庫)『平凡』(新潮社)『坂の途中の家』(朝日新聞出版)『拳の先』(文藝春秋)など多数。

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特急 「かわせみ やませみ」

特急
「かわせみ やませみ」

熊本県の熊本駅から人吉駅へと至る路線を走るD&S列車(JR九州の観光列車)。
2017年にJR九州11番目のD&S列車としてデビュー。
沿線を自由に旅したであろう野鳥の翡翠(かわせみ)と山翡翠(やませみ)から名付けられた。
車窓には、日本三急流の一つに数えられる険しくも美しい球磨川の絶景が映る。

「さて今日は、熊本駅から特急「かわせみ やませみ」という観光列車に乗って、人吉に向かう。九州を走る列車のほとんどすべて、水戸岡鋭治さんがデザインしているが、この「かわせみ やませみ」も同様だ。かわせみの1号車は青、やませみの2号車は緑。全体的な色やデザインはもちろんかっこいいのだが、運転席の座席や車内の天井、子ども用いすの布地、飾ってある絵とその額縁、仕切りの窓ガラスなどなど、よく目をこらさなければ気づかないくらい細かなところに、すばらしくキュートな工夫がされていて、見つけるたびにうれしい驚きがある。乗っているだけでたのしくなってしまうのは、車窓の景色や車内販売のお弁当の素晴らしさだけでなく、こういった細部の茶目っ気が、旅の非日常気分を盛り上げてくれるからだろう。」

角田光代『地球に触れる旅』(2019)

永国寺

永国寺

熊本県人吉市にある曹洞宗の寺院。
室町時代(1408年頃)の創建で、実底超真和尚が開山。
幽霊の掛け軸があることで知られており、通称「幽霊寺」。
常時、幽霊の掛け軸(レプリカ)が展示されており、毎年8月には「ゆうれい祭り」が開催され、この日だけは本物の掛け軸がお目見えする。

「人吉を訪れるのははじめてだが、ぜひいきたい場所がある。永国寺だ。1408年に創立された曹洞宗寺院で、西南の役のときに西郷隆盛が本営を置いた寺として有名で、西郷隆盛による書も残っている。しかしながら私が見たかったのは、その書ではなくて、創立当時の和尚さんが描いたという、幽霊画である。」

角田光代『地球に触れる旅』(2019)

大観峰

大観峰

阿蘇北外輪山の最高峰に位置する海抜936mの天然展望台で、
360度の大パノラマが楽しめる阿蘇随一のビュースポット。
雄大な阿蘇のカルデラを眼下に、正面に阿蘇五岳、東から根子岳 高岳、中岳 鳥帽子岳、杵島岳までが一望できる。

「夕方の、まだ日が落ちきる前に大観峰に着いた。しかし着く前から、車の窓の外に広がるのは、見たこともない異様な光景だ。木々で覆われてもいない、岩でもない、うねうねと続く山は、本当に山なのかわからなくなるくらい、ふつうの山とはかけ離れた形状だ。いったいどこにきてしまったんだろう? と不安になる。」

角田光代『地球に触れる旅』(2019)

鍋ケ滝

鍋ケ滝

熊本県阿蘇郡小国町に位置する落差約10m・幅約20mの滝。この滝は裏側から眺められることが特徴で、別名「裏見の滝」と呼ばれる。阿蘇のカルデラ同様、約9万年前の巨大噴火でできたとされるこの滝は、長い年月をかけて現在の形となった。

「黒川温泉から阿蘇に向かう途中、小国町にある鍋ヶ滝に寄った。公園内の階段をずっと下りていくと、水音がどんどん大きくなって、空気がひんやりしてくる。落差約10メートル、幅が約20メートルの、横に長い滝である。この滝は、裏側を歩くことができる。裏から見る滝は神秘的なカーテンみたいだ。たえまなく落ち続ける水の景色は、見ているだけで気持ちが落ち着く。春の夜はこの滝が裏側からライトアップされるそうだ。それも見てみたい。」

角田光代『地球に触れる旅』(2019)

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