「さて今日は、熊本駅から特急「かわせみ やませみ」という観光列車に乗って、人吉に向かう。九州を走る列車のほとんどすべて、水戸岡鋭治さんがデザインしているが、この「かわせみ やませみ」も同様だ。かわせみの1号車は青、やませみの2号車は緑。全体的な色やデザインはもちろんかっこいいのだが、運転席の座席や車内の天井、子ども用いすの布地、飾ってある絵とその額縁、仕切りの窓ガラスなどなど、よく目をこらさなければ気づかないくらい細かなところに、すばらしくキュートな工夫がされていて、見つけるたびにうれしい驚きがある。乗っているだけでたのしくなってしまうのは、車窓の景色や車内販売のお弁当の素晴らしさだけでなく、こういった細部の茶目っ気が、旅の非日常気分を盛り上げてくれるからだろう。」
角田光代『地球に触れる旅』(2019)