九州新幹線による生鮮品輸送と
今後の可能性を探る

文:コラムニスト 中村孝則

海外の著名シェフによる鹿児島県産食材の視察ツアーと美食イベントを実施

海外の著名シェフによる鹿児島県産食材の視察ツアーと美食イベントを実施

JR九州と鹿児島県では、2023年2月、同県産品の販売促進と販路拡大、地域経済の活性を目的に連携協定を締結。
新幹線輸送の活用と県産品の認知向上を図るために、このたび、国内外のトップシェフの共演による、食材ツアーならびにレストランイベントが開催された。

2024年2月11日から13日の3日間、シンガポールを代表する2人のトップシェフを招いて、鹿児島県の食材や生産者、魚市場や酒造メーカーなどの視察ツアーが開催された。今回参加した、「ユーフォリア(Euphoria)」のジェイソン・タン(Jason Tan)シェフは、「ミシュランガイド・シンガポール版」で1つ星、「アジアのベストレストラン50」2023年度版で24位にランクインする実力者。一方の「ローラ(Lolla)」のヨハンネ・シー(Johanne Siy)シェフは、「アジアのベストレストラン50」2023年度版で、最優秀女性シェフ賞を受賞し、いまアジアで最も注目される女性シェフである。今回、アジアを代表するシンガポールの2人のシェフたちによる、初の食材ツアーとなった。食材のほとんどを輸入に頼るシンガポールのトップ・レストランにおいて、魅力的な食材を探し、かつ鮮度やクオリティを担保したまま確保することは必須の課題でもある。その意味で今回のツアーは参加したシェフたちにとっても、鹿児島食材の知られざる食材の魅力を知るだけでなく、新幹線輸送の利便性と優位性を探るうえでも絶好の機会となった。

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鹿児島県を代表する食材の生産地をその目で視察

鹿児島県を代表する食材の生産地をその目で視察

2人のシェフが最初に訪れたのは、鹿児島県指宿市の空豆とエンドウ豆の生産農家「アグリスタイル」。鹿児島県の空豆やエンドウ豆は、全国に先駆けてこの時期に旬を迎える。2人は、すでに食べ頃を迎えた空豆畑とエンドウ豆の畑を訪れ、そのクオリティの高さと瑞々しさを直接体験することに。

  • 「霧島サーモン」の養殖場にて
  • カンパチの試食
  • うしの中山

霧島市では、霧島連山から湧き出る清冽な天然水で養殖する「霧島サーモン」の養殖場を視察する。湧水を掛け流しで、しかも完全無投薬で育てる「霧島サーモン」は、約2年の歳月をかけて丁寧に育てあげている。
臭みがほとんどなく旨味が凝縮し、刺身で美味しく提供できる身質のクオリティの理由を知る好機となった。垂水市では、カンパチの養殖の「小浜水産」の現場を視察する。深く水質のいい黒潮が入る鹿児島湾で養殖される同社のカンパチは、臭みのないきめ細かな肉質を誇り、刺身はもちろん、加熱調理してもジューシーな持ち味を発揮する。しかも、水揚げ後の鮮度が長続きし、通年での流通が可能である。シェフたちは実際に、試食することでそのカンパチの持ち味を実感した。

うしの中山

鹿屋市では、黒毛和牛の畜産業者「うしの中山」を視察。
A5、A4等級出現率99%を誇る肉質は、品評会で高く評価されている。その品質の高さはもちろん、約5,000頭を保有する最先端の肥育技術を学ぶこととなった。

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中央卸売市場「魚類市場」を早朝の競りの現場を視察

鹿児島市中央卸売市場の「魚類市場」
鹿児島市中央卸売市場の「魚類市場」

一行は鹿児島の鹿児島市中央卸売市場の「魚類市場」も訪問する。鮮魚釣りカツオ水揚げ量では、日本一を誇る鹿児島の台所でもある。タイミングよく、その鰹の早朝の競りの現場にも立ち会うことができた。

この日の早朝の市場には、鰹だけでなく、ブリやカジキなどの外遊魚のほか、ハタなどの根魚や、真鯛や甘鯛、タチウオやキビナゴ、あるいはツキヒガイなど、多様な海産物が水揚げされていた。鹿児島県は、奄美群島などの島々を含めた広大な漁場を誇る。ジェイソンシェフも、その魚種の多さと多様性にあらためて驚いた様子だった。

視察後に市場に併設された食堂では、その朝に水揚げされた新鮮なキビナゴの刺身や、アジのフライを試食し、食材のクオリティの高さを実感した。

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鹿児島県のシングルモルトウイスキーの蒸留所で初リリースを試飲

鹿児島県のシングルモルトウイスキーの蒸留所で初リリースを試飲
鹿児島県のシングルモルトウイスキーの蒸留所で初リリースを試飲

御岳蒸留所は、桜島を見下ろす標高約700メートルの山あいにある。ここは、富乃宝山などの焼酎で知られる、西酒造が手がける、本格的なシングルモルトウイスキー蒸留所である。広大な敷地には、ウイスキーの蒸留施設や樽貯蔵庫があり、その施設や風景の美しさは世界屈指と呼び声が高い。

そして、醸造所初リリースとなるウイスキー「御岳」が発売されたばかり。今回の視察では、ポットスチル(蒸留釜)を含めた蒸留所内部やウイスキー樽の見学のほか、実際にその「御岳」を試飲する機会にも恵まれた。「御岳」の酒精は、スコットランドのスペイサイド地区を象徴する「マッカラン」のような、ふくよかで品のいい余韻が特徴である。

近年、世界で評価が高いジャパニーズ・ウイスキーであるが、「御岳」の極めて高いクオリティに、シェフたちも酔いしれた。

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新幹線輸送された新鮮な鹿児島県食材を使用し、 国内の著名シェフ2名によるディナーイベントを開催

ツアーのハイライトとして、視察した食材を鹿児島から福岡に新幹線輸送し、福岡を代表するレストラン「Goh」において同店の福山剛シェフと、和歌山の人気レストラン「ヴィラ・アイーダ」の小林寛司シェフによる、コラボレーション・ディナー・イベントが開催され、ツアーに参加した2人もシェフもゲストとして招かれた。

新幹線輸送された新鮮な鹿児島県食材を使用し、 国内の著名シェフ2名によるディナーイベントを開催

新鮮な食材だからこそ表現できる美食の数々を体験

「Goh」は、福山剛シェフが2023年1月に西中洲にオープンさせたファイン・ダイニングのレストランである。福山シェフは、「アジアのベストレストラン50」でも、常連としてランクインする実力者である。

今回、招聘した「ヴィラ・アイーダ」の小林寛司シェフも、「ミシュランガイド京都・大阪・和歌山」では2つ星、「アジアのベストレストラン50」でも連続でランクインしている。小林シェフは、野菜を中心に食材の多くを自ら自家畑で育てるという、異色の料理人として知られる。

そして、今回のイベントでは、この2人が新幹線輸送された鹿児島食材を中心にして、協働で1つのコースメニューを作るという特別な食体験イベントとなった。

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鹿児島県食材を使った珠玉の10皿のコース料理が生まれた

今回は、福山シェフと小林シェフが、それぞれ一皿ごとに料理を担当し、合計10皿のコース料理として提供された。

未利用魚 たかえび 唐辛子(福山シェフ)
未利用魚 たかえび 唐辛子(福山シェフ)

「普段から鹿児島県産の食材を使っている福山シェフは、鹿児島の初鰹とフルーツトマト「薩摩天照」、そしてビーツを使った目にも鮮やか前菜など、福山シェフらしい華やかな味覚の料理を作り上げた。

里山牛 空豆 スナップエンドウ(小林シェフ)
里山牛 空豆 スナップエンドウ(小林シェフ)

野菜の審美眼と高い調理技術で定評のある小林シェフは、牛肉に鹿児島県の空豆やエンドウ豆を合わせたメインディシュなど、素材の持ち味を生かす料理の数々を提供。

個々の料理の完成度はもちろん、デザートに至る10皿のコース全体から鹿児島県食材の魅力を味わえるような構成だった。福山、小林の両シェフにとっても、食材の宝庫である鹿児島県のポテンシャルを再発見できる貴重なイベントだったと振り返る。

ゲストとして参加した、シンガポールの2人のシェフたちにとっても、実際に視察した食材が、ファイン・ダイニングとして表現された料理の数々を通して、自身の料理の想像力のヒントになったと語る。

新幹線輸送を使った鹿児島県産食材のシンガポールでのポテンシャル

ジェイソンシェフ ヨハンネシェフ(ディナー後の意見交換会にて)
ジェイソンシェフ ヨハンネシェフ(ディナー後の意見交換会にて)

実際に新幹線輸送を使った場合、その日の午前中に鹿児島中央駅から輸送された食材は、お昼過ぎには博多に到着し、午後に福岡空港から空輸すれば、翌朝にはシンガポールへの輸出が可能になる。魚介類や野菜が新鮮なまま翌日使えることは、シンガポールのレストランにとって大きな魅力だと、ジェイソンシェフとヨハンネシェフは語る。

両国を代表するシェフたち
両国を代表するシェフたち

鹿児島県のエンドウ豆の美味しさに感動したというヨハンネシェフは「生でも美味しく食べられるほど新鮮で美味しい。ぜひ自分の店でも使いたい」と大絶賛。この時期であれば、鮮度のいい空豆や鰹も料理に使いたいと新幹線輸送に期待を寄せる。ジェイソンシェフもエンドウ豆や空豆といった野菜はもちろん、カンパチにも期待を膨らませている。「美しい鹿児島湾の海水で育った養殖のカンパチのクオリティの高さに感動しました。ぜひ自分のレストランでも使ってみたい」と期待を膨らませる。二人とも今回の視察では、鹿児島県の食材の多様性とクオリティの高さ、ユニークさに驚いたと口を揃える。

今回の体験を踏まえてまずは、今回視察した食材を中心に、実際に食材を取り寄せて、新たなメニュー作りに挑戦する予定だという。彼らのレストランで新幹線輸送された鹿児島県食材がどのような料理に生まれ変わるのか。今後の期待が膨らむ視察ツアーとなった。

新幹線輸送された鹿児島県食材
新幹線輸送された鹿児島県食材

JR九州では、飲食店などの法人のお客さまからの新幹線輸送による
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nimotsu@jrkyushu.co.jp(JR九州)
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